ジャパンビジネスラボ事件とは


ざっくり言うと、、、


正社員として働いていたA子さんは、「契約社員は、本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提です」(原文ママ)という新しい制度の説明文書を信じ、育休取得後、週3日勤務から復帰することに。


A子さんの育休中に作られたこの契約社員制度は、「育休明けの従業員のみ」が選択でき、育児と仕事の両立支援を目的とした制度であると、会社は説明しました。


しかし、子どもを預ける保育園を見つけ、A子さんが週5日働ける環境が整っても、会社は正社員に戻すのは「いつになるかわからない」と言い続け、A子さんをメイン業務から外し、1年後、雇止めしました。


こうして、出産前は正社員として働いていたA子さんは、育休復帰1年後に職を失うことになったのです。

概要

株式会社ジャパンビジネスラボに2008年に入社したA子さんは、同社が経営する語学学校「プレゼンス」の英語コーチとして勤務していた。A子さんは2013年に子を出産し、育休を取得した。それまで同社には育休から復帰したコーチはおらず、A子さんが初めてのケースであった。A子さんは、2014年9月に育休期間(1年半)を終えたが、育休明け時点で子どもが通える保育園が見つかっていなかったため、同社の就業規則上の休職の利用を申し出たが認められなかった。A子さんは、育休期間満了日に会社から呼び出され、契約書に署名、育休明けから週3日勤務で働くことになった。契約書には契約期間を1年とする旨の定めが書かれていた。契約社員転換後の月収は48万円(固定残業代込)から10万6千円に下がった。

というのも、会社は、同年4月に、育休明けの従業員に限って一時的に契約することができる契約社員制度を創設していた。A子さんが会社から説明を受けた際に受け取っていた書面には「契約社員は、本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提です」とされ、具体例として「ex.入社時:正社員→(育休)→育休明け:契約社員→(子が就学)→正社員へ再変更」との記載があったことなどから、A子さんは、希望すれば週5日勤務(正社員)に戻れるとの認識に基づき署名をした。

復帰後、A子さんは探す保育園の範囲を通勤経路の途中にまで広げ、乗換駅にある無認可保育園に空きを見つけた。そこで、A子さんは翌月から週5日勤務の正社員として就労したい旨を会社に申し出た。しかし、会社は、正社員に戻るためには会社の合意が必要だと主張し、A子さんを正社員に戻さなかった。A子さんは復帰時期のめどを尋ねたが、時期が示されることもなかった。そればかりか、A子さんは既に決まっていたクラスの担当も外された。A子さんは労働局に相談、女性ユニオン東京に加入、一方会社は、A子さんが正社員復帰を求めたことで「社内の秩序を乱した」などと、懲戒処分の可能性をチラつかせ、計19通の「業務改善指導書」等を出した。面談の中で上司は「俺は彼女が妊娠したら、俺の稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させる」などと発言した。

A子さんは、あくまで保育園が見つかるまで暫定的に契約社員になっただけだと、正社員に戻すよう求め続けたが、会社はこれに応じず、2015年9月にはA子さんとの契約を更新せず、雇止めとした。会社は、それに先立つ2015年5月A子さんを相手に労働審判を申立てるも、同年7月自ら取り下げ、2015年9月にA子さんが労働契約上の権利を有する地位にないことの確認を求める訴訟を起こし、一方で、A子さんは2015年10月に正社員としての地位確認を求めて提訴した。

2018年9月11日の地裁判決では、雇止めを無効と判断した上で、「被告は、原告を正社員に戻す労働契約の締結に係る交渉において不誠実な対応に終始」した、「被告の不誠実な対応はいずれも原告が幼年の子を養育していることを原因とするもの」などと認定した。そして、会社が正社員への復帰を求めるA子さんに、誠実に対応する義務を果たさなかったとして、不法行為があったと認定し、慰謝料100万円と弁護士費用の計110万円を支払うよう命じた。ただし、契約社員から正社員への契約変更について会社の同意はないとして、正社員の地位は認めなかった。

控訴審である高裁では(1)A子さんは正社員の地位にあるか、(2)雇止めは有効か、(3)会社の対応は正当と言えるか(不法行為が認められるか)、(4)A子さんが一審提訴時(2015年10月)に開いた記者会見が会社への名誉毀損に当たるかーの4つが大きな争点となった。再び1年を超える裁判を経て、2019年11月28日の高裁判決では、一審同様にA子さんに正社員の地位を認めなかったうえ、一審では無効とされた雇止めも有効とした。高裁判決では一審とは異なり、会社が禁止していたのにA子さんが執務室内で無断録音したこと、「事実とは異なる情報」をマスコミに提供したことなどをあげ、A子さんには「雇用の継続を期待できない十分な事由がある」とした。また記者会見は名誉毀損にあたるとし、A子さんに55万円(弁護士費用含む)の支払いを命じた。

A子さんは、不当な高裁判決に対して、最高裁に上告し引き続き係争している。

よくある質問 Q & A

この件について、よくされる質問をまとめました。
事案をわかりやすく説明しています。

時系列

入社 〜

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2008年 
・正社員として入社。

2011年 
・創業者 社長 逝去 2代目の社長が就任。 


2012年
・妊娠報告後、本人は希望していないにもかかわらず、メイン業務から外されデスクワークに。

2013年
・出産、産休・育休取得。 


2014年 
2月
・保育園に落ち、待機児童に。

労働審判 〜

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準備中

地裁 〜

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準備中

高裁 〜

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準備中

労働委員会

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準備中

ジャパンビジネスラボ事件の不当判決に抗議する

弁護団声明 

2019年12月27日
ジャパンビジネスラボ事件原告弁護団

1    言葉も失うほどの、稀に見る不当判決

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  東京高等裁判所第 8 民事部(阿部潤裁判長)は、本年 11 月 28 日、育児休業明けの正 社員女性労働者(一審原告)に対し、「契約社員契約への変更」後、正社員復帰を認めず、契約期間満了時に雇止めをした本事件について、一審原告の請求をほぼ全面的に棄却する不当判決を言い渡した。

  本判決は、一審原告の正社員としての地位確認を認めなかったばかりか、原審(東京地裁平成30年9月11日判決)が認めた雇止めの無効について、一審原告が執務室における録音行為等により信頼関係を破壊したなどとして判断を覆し、これを有効とした。 

  さらには、原審が認めた、一審原告の損害賠償請求をほぼ全面的に棄却する一方で、一 審原告が提訴時に行った記者会見によって会社の信用が棄損されたなどとして名誉棄損の成立を認め、一審原告に対し55万円もの高額の損害賠償支払いを命じた。言葉も失うほどの稀に見る不当判決と断ぜざるを得ない。

  日本社会では、社会的・経済的力関係において劣る労働者が、使用者に対して権利行使することは極めて困難であり、それだけに、労働裁判は労働者の権利行使を法的に保障する「最後の希望の砦」でなければならない。そして、そこでなされる判断は、人による裁判である以上、乾いた法理論を形式的機械的にあてはめて労働者を切り捨てるものであってはならない。

  今まさに少子高齢化・労働者不足が社会問題となり、もはや無制約に働く労働者(「男性モデル」)のみでは日本社会は成り立ちえない。これらの労働者のみを厚遇し、働き方に制約がある労働者を排除ないし差別してきた、旧態依然とした職場風土からの脱却こそが求められている。

  本件は、とりわけ妊娠・出産というライフステージを経た女性労働者が置かれた様々な困難な状況への深い理解を法的判断に反映していただくことが強く期待され、注目されてきた。
  しかしながら、本判決は、こうした司法への期待を完全に裏切るものであった。

2    契約社員への変更、正社員復帰拒否及び雇止めは「原告が幼年の子を養育しているこ とを原因とするもの」にほかならず、本判決は育介法の趣旨にもとる「化石」的判断

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  本判決は、原審同様、一審原告が契約期間1年の契約書に署名・押印したことについて、一審被告の説明の内容等から「自由な意思に基づくもの」として有効と判断した。

  しかし、そもそも復帰にあたり正社員としての地位が保障されているはずの育休明け労働者にとって、雇止めの危険を伴う有期労働契約への転換はそれ自体が著しい不利益である。その「選択」によってその後どのような結果・影響が生じるかについての説明 が皆無に等しい本件において、安易に「自由な意思に基づく合意」を認定した本判決の判断には、原審同様、重大な誤りが存する。

  現実に一審原告は雇止めに至っており、本件の経過は、まさにそのような内在的危険 性の顕在化を証明した。しかも実際、本件では契約時に雇止めの危険性についての説明もなされていなかった。

  また、本判決は、育児休業後、各「就労形態」の説明文書に「育児のバックアップ体 制」の構築が求められていたこと、正社員と契約社員の役割に大きな差異があること等を認定し「就労可能性は単に主観的な意思のみで判断されるものではない」「十分な業務ができるか否かについて一審被告の評価や判断を抜きにして」正社員への変更が可能と解する余地はない等と述べる。

  しかし、本来、育休明け復帰の際に、使用者が「十分な業務ができない」などと決めつけて原職復帰を拒否することは育介法違反として到底許されないことからすれば、「育介法を上回る措置」(一審被告の主張)という趣旨で設けられた本件契約社員制度においても、育児をする労働者のみに「育児のバックアップ 体制」構築なる条件を別途課すこと、ましてや使用者側に、正社員復帰の判断を委ねることは到底許されないはずであり、均等法、育介法の趣旨から外れるものである。

  この点、正社員の地位は認めなかったものの、正社員復帰の条件として「要するに(一 審)被告がよしとすれば、という回答に終始し」「(一審)被告の主観的判断にのみかからしめる条件を付したことは、(一審)被告における契約社員(1年)の制度趣旨及びその内容に照らせば、不誠実な交渉態度であった」「被告の不誠実な対応はいずれも(一 審)原告が幼年の子を養育していることを原因とするもの」として、一審被告を厳しく非難し、不法行為の成立を認めた原審とは大きく姿勢が異なる。

  本判決は、育介法の理念である「職業生活と家庭生活の両立」を懸命に模索しようとする労働者の苦悩を解さず、事業主の主張を丸呑みした偏頗な発想に立つものであり、 時代に大きく遅れた「化石」的判断と言わざるを得ない。

3    職場における録音は証拠の確保や自己防衛のための手段であり、解雇や雇止めの正当理由になりうるとするならば、労働者の権利行使は困難に

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  本判決は、本件雇止めを有効としたが、その理由は、一審原告が会社代表者の命令及び誓約に反して、執務室における録音を繰り返したこと、就業時間中に多数回にわたり、 業務用のメールアドレスを使用して私的なメールのやり取りをしたこと、マタハラ企業であるとの印象を与えようとしてマスコミ等外部の関係者らに対して、あえて事実とは異なる情報を提供し、会社の名誉、信用を棄損する行為に及び、会社との信頼関係を破壊する行為に終始していることから、雇用の継続を期待できない十分な理由があるというものである。

  しかし、正社員への復帰が拒まれ、労使間に深刻な対立状況が生まれている中、力関係に劣る労働者が自らの権利を保全し、主張し、実現するために、証拠の確保や自己防衛のために録音等の証拠収集行為をすることは認められなければならない。

  現に、パワハラ、セクハラをはじめ、多くの労働裁判では労働者による録音が証拠として重要な役割を果たしており、裁判所も証拠採用して事実認定と判断に活用している。 また、メディアに対する情報提供は、メディアが国民の知る権利を保障する機関として、 国民の関心事たりうる社会事象を取り上げ、報道することを使命としていることからすれば、可視化されにくい職場の実情を労働者からの情報提供によって報道し問題提起をするという重要な意義を持つ。

  さらに本判決は、一審原告による録音をもっぱら自己に有利に交渉を進める目的であったと一方的に決め付けている。仮に、職場における録音行為やマスコミへの情報提供行為が解雇や雇止めの正当理由になりうるとするならば、その萎縮効果は計り知れないものがあり、労働者の権利行使が困難になり、国民の知る権利の保障にとって障害となる。

  この点、原審は、「一般に労使間の紛争において、その争点にかかる労使間の会話の 録音が重要な証拠になることは社会通念上明らかであり、原告にこれを後日証拠化するために録音する必要があったことは否定できない。」と判断し雇止めの理由として認めなかった。原審の判断は極めて常識的であり、不当極まりない本判決の判断と対照的である。

4    労働者によるメディアへの情報提供、労働事件提訴を社会問題として報じるマスメデ ィアの取材の自由、報道の自由、そして国民の知る権利を侵害するもの

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  本判決は、一審原告が提訴時に記者会見の席で述べた内容につき名誉棄損が成立するとし、雇止めを有効とされ正社員の地位をも失った一個人に対し、高額の損害賠償を命じるに至った。

  そもそも提訴時記者会見は、記者クラブにおいて報道を職責とする記者を対象に、提訴した事実とその内容を公表するものである。労働事件についても頻繁に行われ、提訴の事実そのものをニュースソースとして日常的に報道されている。訴訟開始前であるから、裁判の帰趨によっては請求が認められないこともありうることを当然の前提とするものであり、現に、一方当事者の主張として報道されている。

 原審は、記者会見における一審原告の発言について、「その内容自体及び発言がされた場に照らせば、いずれも、一般に原告が(裁判において)その旨主張しているとの事実を適示したと理解されるものである」として、各発言が当事者の主張であることを前提とする記者会見の構造を理解しつつ、名誉棄損に当たらないと的確に判断している。


  ところが、本判決は、「弁論主義が適用される民事訴訟手続における主張・立証」と記者会見を対比させつつ、「契約社員になるか自主退職するかを迫られた」「子どもを産んで戻ってきたら、人格を否定された」「(労働組合に加入したところ)あなたは危険人物だと言われた」との発言を名誉棄損であると断じた。


  本件一連の経過からみれば、一審原告の発言は自己の受けた被害の事実や心情を表現したもので、それを今後訴訟にて主張していくと述べているにすぎず、名誉棄損に当たるとは到底考えられない。とりわけ本件は、会社が一審原告に対し労働審判を申立て、労働審判が出される前に自らそれを取り下げて雇止めをし、その後訴訟提起をしたという経緯を有する。一審原告は正社員化も実現されぬまま雇止めされ、あげく訴訟に巻き込まれたという状況下にあった。


  それにもかかわらず、これらの発言に対して、原審判断を覆し、名誉棄損であるとした本判決の姿勢と判断は、労働者によるマスメディアに対する情報提供を委縮させ、その権利行使を妨げる効果をもたらしかねない重大なものである。また、これをマスメディアの観点からみれば、マスメディアの取材の自由、報道の自由、ひいては、国民の知る権利を制約するものというべきである。 

5    安心して子を産み育て働き続けることのできる社会 そうした社会へ導く判決を

    

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 一審原告は、本件につき、上告し最高裁の判断を求めることにした。


 一審原告の願いは、妊娠、出産、育児といったライフステージを経ながら、従前と同じ正社員として会社に貢献したいという極めてシンプルなものにすぎないにもかかわらず、最後の希望の砦である司法が大きな「壁」となって立ちはだかっている。
 本判決は、そればかりか、一度契約社員に変更したら、会社がよしとするまで復帰できないという「片道切符の泥船」手法に太鼓判を押し、あげく一審原告の労働者の地位まで奪い、損害賠償を命じるまでに至っており、こうした正義にもとる判決を容認することは到底できない。

  最高裁判所が、少子高齢化・労働者不足という日本社会の深刻な実情を踏まえ、労働現場における旧態依然とした人事システムや職場風土、育児中の労働者の置かれた状況などを洞察し、普通の人間が人としてのライフステージを経ながらも安心して働き続けられる社会(安心して子を産み育て働くことのできる社会)へ導く判断を下すことを強く期待し、われわれ弁護団も一審原告や支援者の皆さまとともに、引き続き全力で闘う決意である。 

以 上

判決文 

裁判所が公開している判決文にとびます。

地方裁判所 判決文

東京地方裁判所民事第11部

裁判長裁判官 阿 部 雅 彦
裁判官 上 田 真 史
裁判官 原 島 麻 由

高等裁判所 判決文

東京高等裁判所第8民事部


裁判長裁判官 阿 部 潤
裁判官 田 口 治 美
裁判官 上 田 洋 幸